テクノロジーやインターネットの普及に伴い、消費者はますますオンラインショッピングに移行している。電子商取引プラットフォームは、国境を越えた商品の有用かつ実用的なオンライン取引を生み出した。電子商取引プラットフォームの販売業者数も近年大幅に増加している。当然のことながら、オンラインでの商品の供給量が多いほど、オンライン上での知的財産権侵害のリスクが高くなる。これにより、多くの人にとって買い物がより身近で便利になった一方で、悪徳販売業者にとっても大きなチャンスが生まれた。これらの悪徳販売業者は匿名であることが多く、身元を特定したり責任を追及したりすることが困難な場合がある。その結果、一部の知的財産権所有者は電子商取引プラットフォームに責任を負わせようとしており、電子商取引プラットフォームがユーザーによって提供されたコンテンツに対してどのような法的責任を負うのかという疑問が生じている。 2022年3月、中央知的所有権国際貿易裁判所(以下、「IP&IT裁判所」という)は、電子商取引プラットフォームが、そのプラットフォーム上での第三者による知的財産権侵害の申立てに対して責任を負わないという画期的な判決を下した。 [1] 寄与侵害 知的財産権は、侵害製品を販売または製造する者によって直接侵害されることもあれば、侵害行為を助長または侵害行為に寄与する者によって間接的に侵害されることもある。現在、タイの知的財産関連の法律には、電子商取引プラットフォームによる寄与侵害に関する明確な規定はなく、最近までこの問題に関する明確な判決はなかった。 タイにおける当該分野において最近の進展の一つは、2022年8月23日に施行される著作権法(第5号) B.E.2565 (2022)が挙げられる。本著作権法は、インターネットサービスプロバイダがユーザーによって提供された著作権を侵害するものに責任を負わない旨を規定している。しかしながら、現在のところ、特許、商標、その他の知的財産権に関して同様の規定は存在しない。 頻繁に適用される法律は民商法典第432条であり、これは不法行為を教唆または援助した者は共同行為者とみなされ、共同して損害を賠償する義務を負うと規定している。 しかしながら、法は、寄与侵害の基準が電子商取引プラットフォームにどのように適用されるべきかについて、明確に述べていない。 以上を踏まえ、2022年3月、IP&IT裁判所は、間接的知的財産権侵害に対する電子商取引プラットフォームの責任の問題について、初の判決を下した。 [2] 電子商取引プラットフォームは知的財産権を侵害する商品の販売に対して責任を負うのか? 2017年6月、タイ企業が原告として、中国最大の国際オンラインマーケットであるAlibaba.comとAlibabaグループ傘下の世界的な小売マーケットであるAliExpress.comで販売され、特許権を侵害する消火用ボールの出品物について、Hangzhou Alibaba Advertising Co., Ltd.(以下、Alibabaという)に対して特許権侵害訴訟を提訴した。この訴訟は、電子商取引プラットフォームに対する否定的なメディア報道をもたらした。 Alibabaは、自社のプラットフォームで販売されている商品が原告の特許権を侵害していると主張されていることを知らなかったし、また知る余地もなかったと主張した。その結果、被告は原告の特許権を侵害する責任を負うことができなかった。 購入者はまず、被告のウェブサイトから商品を注文するためのアカウントを登録しなければならない。アカウントを登録する際、購入者は契約を結び、購入者に生じたいかなる損害についても販売業者が責任を負うことを明記する。AliExpress.comのウェブサイトから消火用ボールを購入する原告は、Alibabaのプラットフォームのユーザーとして、この契約に拘束される。したがって、原告の主張は電子商取引プラットフォームではなく販売業者に対して行われるべきであった。 Alibaba.comとAliexpress.comに独立して商品リストを掲載し、販売を申し出たのは、販売業者であった。Alibaba自身は係争中の商品を掲載しておらず、プラットフォーム上でオンラインでの商品販売を管理する能力も持っていなかった。さらに、Alibabaは、消火用ボールが原告の特許権を侵害していることを知らなかったし、また知る余地もなかった。また、侵害に対抗するため、Alibabaは強固なnotice-and-takedown システムも有し、noticeを受けとると掲載されている侵害商品を削除することができる。 2022年3月24日、IP&IT裁判所は被告に有利な判決を下し、Alibabaはウェブサイト上で商品を売買するサービスを提供するオンラインプラットフォームに過ぎず、被告は原告の特許権を侵害していないと結論付けた。 [3] 所見 これは、IP&IT裁判所が間接的知的財産権侵害に対する電子商取引プラットフォームの責任を扱った初めての事件であり、画期的な事件である。特に注目すべきは、裁判所が適用した理由である。裁判所は、国際基準を反映した基準を使用し、電子商取引プラットフォームの実際の知的財産権侵害に関する知識、知的財産権侵害から金銭的利益を得た者、そして電子商取引プラットフォームが侵害行為を制御する能力を考慮した。本判決はまた、裁判所が電子商取引プラットフォームが実際にどのように運用されているのか?、そして、プラットフォーム上の知的財産権侵害の疑いのある疑義品を管理する能力をも検討することを示している。 電子商取引やオンラインショッピングが成長を続けるにつれ、プラットフォームに対する知的財産権侵害の申立ても増えている。本判決は、これらの問題に影響をあたえる可能性があるものである。