世界各国は、気候変動に関する法律に大きな関心を寄せており、気候変動の勢いを弱めるために、国、地域、世界規模で多くの試みがなされている。その中でも特に注目すべきは、現在193の締約国が採択している気候変動に関する法的拘束力のある国際条約「パリ協定」である。この条約は、世界の平均気温を産業革命以前の水準から2℃以下に抑えることを目標としており、これまでの世界的な合意・議論よりもはるかに野心的な協調的取り組みとなっている。
パリ協定第4条では、各国に気候変動対策の行動計画からなる「国が決定する貢献」(NDC: Nationally Determined Contribution)を要請している。パリ協定の締約国であるタイは、2030年の温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)排出削減目標をビジネスモデル予測から20%削減する(技術開発、財源、その他支援へのアクセスを条件として25%削減する)としている。
この公約の達成を可能とするために、タイは国内の気候変動対策の重要なメカニズムとして機能する気候変動法の制定を進めている。2018年、天然資源環境省傘下の天然資源・環境政策計画局(ONEP: Office of Natural Resources and Environmental Policy and Planning)が、気候変動法のドラフトを作成することになった。その草案が完成し、報道によると、さらなる検討のために内閣に提出される。
気候変動法の草案は、気候変動の緩和・適応に関するタイの行動計画の枠組みを定めたものである。この法律案は、市民の権利、国家気候変動政策委員会、温室効果ガス・データベースなどにつき規定している。
市民の権利
気候変動に関する国民の権利として、国から気候変動に関する情報を受け取る権利、気候変動対策について情報・意見を提供して参加する権利、気候変動対策事業等に対して政府の支援を受ける権利などを定めている。
国家気候変動政策委員会
国家気候変動政策委員会は温室効果ガス排出削減、気候変動に対する適応・管理など、気候変動に関する政策・施策を内閣・関係省庁に提言することができる。同委員会は、気候変動に関する国家基本計画を内閣に提案し、国家温室効果ガス排出削減計画および国家適応計画を実行する役割を担っている。
温室効果ガス・データベース
草案では、天然資源・環境政策計画局による温室効果ガス・データベースの開発・管理を要請している。このデータベースには、温室効果ガスの排出量・発生源、温室効果ガスの純削減量等に関する記録が含まれる。温室効果ガスデータベースを促進・支援するために、下記の機関を含む国家機関は、温室効果ガスの排出・吸収・削減の活動に関して天然資源・環境政策計画局に報告することが義務付けられている。
上記のデータベースの維持・管理において、天然資源・環境政策計画局及び上記の機関は、他の国家機関又は民間事業者(工場経営者、エネルギー事業者等)に対しても情報の提出を要請することができる。
理由なく温室効果ガス関連情報を天然資源・環境政策計画局または関連の国家機関に提供しない、虚偽の温室効果ガス関連情報を提供する、又は温室効果ガス関連情報を隠蔽して他人に損害を与える等の行為は、行政罰の対象となる。
気候変動法のさらなる課題
気候変動法が制定されると、上述したような市民の権利が確立され、この法律のもとで様々な国家計画が策定される。現在の草案においては国家機関に温室効果ガスデータの提出を要求する権限を与えるなど、広範な行政措置を規定している。だが、被災した市民に対する救済方法については、まだ言及していない。したがって、気候変動から影響を受ける人々を保護し、救済策を提供するための手続き・対応をどうするかが今後、重要な課題となるであろう。
備考:本和文は英文記事から作成しました。原文については、以下のリンクをご参照ください。 Thailand’s Draft Climate Change Act