生成AIの出現は、イノベーターとクリエイターの状況を一変させた。多くの法律実務家が指摘しているように、AIの開発者および生成AIを使用する者の双方が、この進化する状況をうまく乗り切れるように、知的財産戦略の複雑さを理解することが不可欠である。本記事では、生成AIの領域における開発者とクリエイターの双方にとって、知的財産(IP)の主要な種類に関連するいくつかの重要な考慮事項を説明する。 生成AIの開発者のためのIP戦略 生成AI技術の開発者は、技術革新の状況において極めて重要な役割を果たしている。考慮すべき知的財産関連の課題は、自己の知的財産の保護、他人の知的財産権を侵害するリスクの軽減、知的財産の商業化の3点である。これらの課題の主な態様と、開発者に推奨される手引きを以下に示す。 IPの保護 著作権:AI開発者にとって主要考慮事項の1つは、芸術作品やソースコードなど、AIによって生成された著作物の保護である。幸いなことに、ほとんどの国では、これらの創作物は登録の必要がなく、著作権の保護を受けられる。その結果、著作物は創作された時点から自動的に保護される。しかしながら、所有権を確立するためには、著作物の登録を維持することが重要である。 商標:商標は、ブランドを確立し、保護しようとするAI開発者にとって不可欠である。ニース分類、特にclass 9 (ソフトウェア) 、class 35 (ビジネス管理とオンラインマーケティング) 、class 42 (ソフトウェアの設計および開発) には細心の注意を払う必要がある。これらのclassで商標を登録すると、ブランドと商品を強固に保護できる。 特許:真に革新的なAIアルゴリズム、技術、またはプロセスについては、特許を取得するという選択肢を検討するべきである。特許は強力な保護を提供するが、完全な出願プロセスと、発明が新規性・進歩性を有し、実際に実施可能であることを示す証拠を含む、発明の文書化が必要である。 営業秘密:営業秘密により、学習用データやアルゴリズムなどの貴重な資産を保護する。秘密を保持し、アクセスを制限して秘密性を維持する。秘密保持契約を含む法的契約は、これらの重要な要素を保護する上で非常に重要である。 他人の知的財産権を侵害するリスクの軽減 データ収集:AIモデルを学習するためにデータセットを収集する場合、合法的に取得されたデータを使用すべきである。収集委託されたデータセットや、著作者を特定できない著作物・著作者が不明な著作物には、利用権が付属していることが多く、より安全な選択が必要になる。著作権侵害の問題を回避するために、出所が不明なデータセットを扱う場合は注意すべきである。 データ保護法:AIの学習用データセットには、欧州の一般データ保護規則 (GDPR: General Data Protection Regulation) やタイの個人データ保護法 (PDPA: Personal Data Protection Act) などのデータ保護法の対象となる個人データが含まれている場合がある。これらのような適用されるデータ保護法に従わない場合、個人のプライバシー権が侵害され、法的な影響を受けるリスクがある。 IPの商業化 所有権の問題:特にIPの創作に複数の者が関与している場合、IPの所有権は複雑になる場合がる。将来の紛争や法的な複雑さを回避するために、所有権と潜在的な責任問題を明確にすることに努める必要がある。 ライセンスコンポーネント:知的財産権のライセンスは、商業的に利用するための基本的なツールである。ライセンスは、著作者が独自に創作した要素(コンポーネント)や生成AIの使用によって開発された要素を含む、著作物に対する所有権の範囲も定義する必要がある。AIによって生成された製品を商業化する場合は、所有権を有する、または創作した要素を特定するべきである。自身の知的財産と、オープンソースまたは他者のライセンスされた知的財産を組み込んだ要素を区別することで、自身の利益を保護しながら効果的なライセンス契約を作成しやすくなる。 クリエイターとアーティストのためのIP戦略 生成AIを使用するクリエイターおよびアーティストは、さまざまなIPの課題にも直面している。これらのいくつかは、上記で説明した様々なトピックに関連しているが、特定の懸念事項と推奨されるアプローチは異なる。例えば、クリエイターやアーティストは、IPの商業化や知的財産権の侵害のリスクに関して、各々様々な懸念を持っている。特に、生成AIを使用した二次的作品や共同で創作された発明に関連し、知的財産権の問題も表面化する。 知的財産(IP)の商業化とライセンス ライセンスと販売:生成AIを使用するクリエイターやアーティストは、エンドユーザーに対するライセンス契約を認める場合、ライセンスを付与したり、著作物を販売したりすることができる。これにより、収益化のための手段を提供し、多くのユーザーとクリエイティブな取組みを共有することができる。 知的財産権に対する所有権:生成AIおよびそのプロンプトによって創作されたIPの商業化を検討する場合、その所有権を決定することが必須の必要条件である。生成された作品に対するユーザーの貢献度を考慮する 「額に汗理論(sweat of the brow doctrine)」 のような要因は、所有権に影響を与える可能性がある。作品の創作に使用されるAIツールやプラットフォームの使用条件およびライセンス契約を慎重に確認する必要がある。明示的な所有権の条件がない場合、各管轄地域の法律によって所有権が決定されることがある。 商業上の取り決め:ライセンスやサブスクリプションなどのサービスモデルの種類も、著作権の所有権に影響を与える可能性がある。選択したライセンスモデルまたはサブスクリプションモデルによって所有権が影響を受ける可能性があるため、無料または有料のサブスクリプションにかかわらず、サードパーティのAIソフトウェアを使用して作品を作成する場合は、所有権に対する影響に注意する必要がある。 所有権 二次的作品:生成AIを使用して二次的作品を創作する場合、特に原作品が著作権で保護されているときは、原作品から利用許諾を得る必要がある場合がある。 共同で創作された発明:共同で創作された発明を含む状況や、共同ツールとして生成AIを使用する場合、(例えば、契約による)共同研究者間で所有権および責任を明確に定義することで、紛争を防止し、すべての貢献度が明確になり保護されることを保証できる。 他人の知的財産権を侵害するリスク 信頼できる生成AIの活用:他人の知的財産権を侵害したり、(GDPRなどの)他の法律に違反したりするリスクを軽減するには、データセットやトレーニング済みモデルなど、合法的に調達された素材で生成AIを常に使用することである。 公正利用の理論(fair-use doctrine)の用心:公正利用の要件および例外は、国によって大きく異なることがある。ある国で公正利用に該当するものが、別の国では該当しない可能性があるため、その国の法的状況を理解し、防衛手段としての公正利用に頼ることに注意する必要がある。 結論 生成AIは、イノベーター、開発者、クリエイター、アーティストにとって、エキサイティングな機会および複雑な課題の両方をもたらす。法的な複雑さ、特にIPに関連する複雑さは、このテクノロジーの関連領域で顕著である。そのため、効果的なIP戦略は、創作物を保護し、法的な落とし穴を回避し、イノベーションのメリットを活用するために不可欠である。慎重かつ綿密に練られた法的IP戦略は、クリエイター、イノベーター、およびその組織が、このダイナミックな状況の中で有意義な進歩を遂げるのに役立つ。 備考:本和文は英文記事を翻訳したものです。原文については、以下のリンクをご参照ください。 Navigating Legitimate Use of IP in Generative AI